福岡地方裁判所 昭和61年(ワ)238号 判決 1988年1月21日
原告
大隈誠
被告
安部澄子
主文
一 被告は、原告に対し、金四八万八一一六円及びこれに対する昭和五七年九月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その一を被告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二一七万五一三三円及びこれに対する昭和五七年九月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
原告は、左記の交通事故(以下「本件事故」という。)により、頭部・右半身打撲傷、右鎖骨骨折等の傷害を負つた。
記
(一) 発生日時 昭和五七年九月一七日午後五時四〇分頃
(二) 発生場所 福岡市南区玉川町一三―二六先路上
(三) 加害車両 軽四輪貨物自動車(福岡四〇え四六〇四)
(四) 右運転者 訴外堤淳子(以下「訴外堤」という。)
(五) 被害車両 原動機付自転車
(六) 右運転者 原告
(七) 態様 原告が被害車両を運転して前記場所を進行していたところ、後方から進行してきた訴外堤運転の加害車両が急激に左側に進路を変更したため、加害車両が原告に接触し、原告が同所で転倒した。
2 被告の責任
(一) (主位的責任原因)
(1) 訴外堤は、進路前方及び側方を注視して進路を変更すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、漫然と進路を変更した過失により本件事故を発生させた。
(2) そして、訴外堤は、当時被告が経営していた化粧品の販売店の仕事に従事しており、本件事故はその仕事の途中に発生したものである。
(3) したがつて、被告は、民法七一五条により原告の被つた損害を賠償する責任がある。
(二) (予備的責任原因)
(1) 被告は、加害車両を自己のために運行の用に供していたものである。
(2) したがつて、被告は、自動車損害賠償保障法三条により原告の被つた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 入院雑費 二万〇八〇〇円
原告は、本件事故による前記傷害により、昭和五七年九月一七日から同年一〇月一二日まで二六日間堤病院に入院し、一日当たり八〇〇円、合計二万〇八〇〇円の入院雑費を要した。
(二) 診断書等作成料 一万五〇〇〇円
原告は、右病院から診断書三通の作成交付を受け、その費用として一万五〇〇〇円を支払つた。
(三) 入院付添費 一一万九五八〇円
原告は、前記入院期間中付添看護を要し、その費用として一一万九五八〇円を支払つた。
(四) 被害車両の修理代 八〇〇〇円
本件事故により被害車両を損傷し、原告は、その修理代として八〇〇〇円を支払つた。
(五) 背広、ヘルメツト等破損代 一二万円
本件事故により、原告は、背広、ヘルメツト等を破損し、一二万円相当の損害を被つた。
(六) タクシー代 三万円
原告は、本件事故による傷害により、昭和五七年一〇月一三日から昭和五八年七月九日まで二七〇日間(実日数五五日間)堤病院に通院し、その通院交通費としてタクシー代三万円を要した。
(七) 傷害に基づく慰謝料 一〇〇万円
原告は、本件事故による傷害のため、前記のとおり二六日間の入院と二七〇日間(実日数五五日間)の通院を要したものであり、これによる精神的苦痛に対する慰謝料は一〇〇万円が相当である。
(八) 休業損害 三八万二四〇〇円
原告は、本件事故当時一か月四五万六〇〇〇円の収入を得ていたが、前記入院期間(二六日間)中休業せざるをえなかつたので、三八万二四〇〇円(一〇〇円未満切捨て)の休業損害を被つた。
(九) 逸失利益 二五二万四九九三円
原告は、本件事故により右肩関節機能障害、右上肢知覚障害、肋間神経痛等の後遺障害を残し、昭和五八年七月九日症状固定をみた。そして、右後遺障害は、自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級一四級に該当し、その労働能力喪失率は五パーセントである。
原告は、昭和五七年度には年間六八六万七二七三円の所得を得ていたものであり、五七歳から六七歳までの間前記五パーセントの労働能力を喪失したものであるから、原告の後遺障害による逸失利益は二五二万四九九三円となる(計算式は次のとおり)。
6,867,273×0.05×(9.2151-1.8614)=2,524,993
(一〇) 後遺障害に基づく慰謝料 六〇万円
原告は、前記のとおりの後遺障害を残したものであり、これによる精神的苦痛に対する慰謝料は六〇万円が相当である。
(一一) 弁護士費用
原告は、本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任したものであり、その弁護士費用として三八万円の損害を被つた。
4 損害の填補
原告は、自動車損害賠償責任保険から一〇二万五六四〇円の支払を受け、また、本件訴訟提起後、訴外堤から二〇〇万円の支払を受けた。
5 結論
よつて、原告は、被告に対し、右損害金残金二一七万五一三三円及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年九月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1について
(一) 冒頭の事実は知らない。
(二) (一)ないし(六)の事実は認める。
(三) (七)の事実は否認する。
2 同2について
(一) (一)のうち、(1)の事実は否認し、(2)の事実は認め、(3)は争う。
(二) (二)のうち、(1)の事実は認め、(2)は争う。
3 同3の事実はすべて知らない。
4 同4の事実は知らない。
三 被告の主張
1 本件事故の態様
本件事故は、原告が被害車両を運転して、前方を走行していた訴外堤運転の加害車両を追走していた際、被害車両の運転操作を誤り、加害車両に接触したことによつて発生したものであり、訴外堤に過失はなく、したがつて、被告にも責任はない。
2 過失相殺
仮に訴外堤に過失があるとしても、原告の右過失は重大であるから過失相殺されるべきである。
四 被告の主張に対する認否
被告の主張事実はすべて否認する。
第三証拠
当事者双方の証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。
理由
一 請求原因1について
1 請求原告1の(一)ないし(六)の事実は当事者間に争いがない。
そして、いずれも成立に争いのない甲第二ないし第四号証によれば、原告は、本件事故により、頭部・右半身打撲傷、右鎖骨骨折、右第三ないし第六肋骨骨折等の傷害を負つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
2 次に、本件事故の態様について検討する。
いずれも原告本人尋問の結果により真正に作成されたと認められる甲第一〇ないし第一二号証、証人大田文隆の証言により真正に作成されたと認められる甲第一四号証及び証人大田文隆の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告が被害車両を運転して、清水四ツ角交差点から野間四ツ角方面に向かつて本件事故現場を走行していたところ、後方から同一方向に被害車両の右側を走行してきた訴外堤運転の加害車両が、同所において左側に進路を変更したため、加害車両の左側面と被害車両のハンドル右側グリツプが接触し、そのため被害車両が転倒し、原告が前記認定した傷害を負つたものと認められ、この認定に反する証人堤淳子の証言は前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二 請求原因2について
前記一2で認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件事故は、訴外堤において、進路前方及び左側方を注視して左側に進路を変更すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、漫然と左側に進路を変更した過失により発生した事故であると認められる。
そして、請求原因2(一)(2)の事実については当事者間に争いがない。
したがつて、被告は、民法七一五条所定の使用者責任により、原告が被つた後記損害を賠償する責任がある。
三 請求原因3について
1 入院雑費 二万〇八〇〇円
前掲甲第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記傷害のため、昭和五七年九月一七日から同年一〇月一二日まで二六日間堤病院に入院して治療を受けたことが認められ、経験則によると、右入院期間中一日当り八〇〇円の割合による入院雑費を要したことが認められるから、結局、原告は、本件事故により、入院雑費として合計二万〇八〇〇円の損害を受けたものと認められる。
2 診断書等作成料 一万五〇〇〇円
いずれも成立に争いのない甲第六号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、堤病院から診断書二通及び入院証明書一通の作成、交付を受け、その費用として一万五〇〇〇円を支払つたことが認められ、右費用は本件事故による損害であると認められる。
3 入院付添費 一一万九五八〇円
成立に争いのない甲第七号証、弁論の全趣旨により真正に作成されたと認められる甲第一五号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記入院期間のうち、昭和五七年九月二〇日から同年一〇月四日までの一五日間付添看護を要し、その費用として一一万九五八〇円を支払つたことが認められ、同費用も本件事故による損害であると認められる。
4 被害車両の修理費用 八〇〇〇円
証人大田文隆の証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故により被害車両のハンドルのグリツプ、後方の方向指示器及びバツクミラー等が損傷し、原告は、右損傷部分を修理する費用として八〇〇〇円を要したと認められる。
5 背広、ヘルメツト等破損代 一二万円
原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、当時着ていた背広及び被つていたヘルメツト等を破損し、一二万円相当の損害を被つたことが認められる。
6 タクシー代 三万円
前掲甲第三号証、いずれも成立に争いのない甲第八号証の一ないし二四及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故による傷害の治療のため、昭和五七年一〇月一三日から昭和五八年七月九日までの二七〇日間のうち、五五日堤病院に通院し、その通院交通費としてタクシー代三万円を要したことが認められ、同費用についても本件事故による損害と認められる。
7 傷害に基づく慰謝料 一〇〇万円
前記認定のとおり、原告は、本件事故による傷害のため、二六日間の入院と二七〇日間(実日数五五日間)の通院を余儀なくされたものであり、これによつて被つた精神的苦痛に対する慰謝料は一〇〇万円をもつて相当と認める。
8 休業損害 三八万二四〇〇円
成立に争いのない甲第九号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時一か月四五万六〇〇〇円の収入を得ていたが、前記入院期間(二六日間)中休業せざるをえなかつたので、三八万二四〇〇円(一〇〇円未満切捨て)の休業損害を被つたことが認められる。
もつとも、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時福岡消防局に勤務しており、右休業期間中も報酬を得ていたものと認められるが、同本人尋問の結果によれば、原告は、右休業期間中有給休暇を利用していたものと認められ、本来別の用途にあてることのできた有給休暇を利用したために収入の減額を免れえたかかる場合には、前記入院期間中得ることのできた収入額を休業損害として評価すべきであると思料する。
9 逸失利益 一一一万七九七六円
前掲甲第三、四号証、いずれも成立に争いのない甲第五号証、第九号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(一) 原告は、本件事故による傷害につき、前記のとおり入・通院治療を受けたが、右肩関節につき外転機能等の、右肘関節につき屈曲機能等のそれぞれ機能傷害を残し、また、肘間神経痛、右肩頸部痛、右肩・上肢の倦怠感の自覚症状が残存したまま、昭和五八年七月九日、症状固定の診断を受け、自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級一四級の認定を受けた。
なお、原告は、右症状固定日には五六歳であつた。
(二) 原告は、本件事故当時福岡消防局に勤務していたが、右後遺障害のため自己の身体を動かして消防訓練の指揮、指導をなすことができず、同僚に交替してもらうなどの不都合があつたため、定年を前にして昭和五九年三月三一日右消防局を退職し、以後は嘱託として福岡市に勤務している。そして、その後、右後遺障害は次第に回復している。
(三) 原告の昭和五七年度の給与所得は六八六万七二七三円であり、また、昭和五八年の産業計全労働者の五五ないし五九歳の年収額は三五〇万六七〇〇円である。
以上認定した事実を総合勘案すると、原告の後遺障害による逸失利益を算定するに当たつては、労働能力喪失率を五パーセントとし、喪失期間を症状固定日から五年間とするのが相当であり、基礎とする収入額は、症状固定日から二年間については六八六万七二七三円、その後三年間については三五〇万六七〇〇円とするのが相当である。そして中間利息については、新ホフマン係数を適用し、その逸失利益を計算すると、次のとおり一一一万七九七六円(円未満切捨て)となる。
(6,867,273円×0.05×1.8614)+(3,506,700円×0.05×2.7310)=1,117,976
10 後遺障害に基づく慰謝料 六〇万円
前記認定のとおり、原告は、右肩関節等に後遺障害を残しており、その部位、程度その他諸般の事情を斟酌すると、原告の右後遺障害による精神的苦痛に対する慰謝料は六〇万円をもつて相当と認める。
11 合計 三四一万三七五六円
右1ないし10の各損害金を合計すると、三四一万三七五六円となる。
四 被告の主張について
前記一、二で認定したとおり、本件事故は、訴外堤が前方及び左側方を注視するのを怠り、漫然と左側に進路を変更したために発生した事故であつて、原告に過失があつたと認めるに足りる証拠はない。
したがつて、被告の主張はいずれも採用できない。
五 請求原因4及び弁護士費用について
弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
よつて、原告の前記損害額から填補された金額合計三〇二万五六四〇円を差し引くと、残損害額は三八万八一一六円となる。
また、原告が本件訴訟の提起及び遂行を原告訴訟代理人に委任したことは弁論の全趣旨により明らかである。そして、本件訴訟の難易、審理経過、認容額その他諸般の事情を総合考慮すると、原告が被告に対して賠償を求め得る本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一〇万円とするのが相当である。
六 結論
以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告に対し四八万八一一六円及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年九月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大谷辰雄)